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ブラックホールの観測を支えた技術

今とても話題になっているブラックホールの観測[1]。
果たしてそれは何がすごいのでしょうか。

私は学生時代3年ほどブラックホールの研究をしていました。
その成果として、ブラックホールに関する2本の査読付き論文が出ています。

論文はそのほとんどが有料です。
今回のブラックホールの観測のように、歴史的な研究成果の場合は特別に無料公開されることがあります。
近年では重力波の観測[2]でも論文が無料公開されています。
(そして2017年のノーベル賞[3]となりました)
今回のブラックホールの観測も(特殊な訓練を受けた)一般の方が読める論文として公開されています。
この論文をもとに、ニュースの全貌を少しだけ紹介しましょう。

ブラックホールの歴史

ブラックホールの歴史は今から104年前の1915年までさかのぼります。
1915年かの有名なアインシュタインは一般相対性理論を発表しました。
一般相対性理論は物と空間とを結ぶ方程式です。
これを同年にシュバルツシルトが解き、ブラックホールが予測されました。
今からちょうど100年前の1919年、
アインシュタインが一般相対性理論の論文の中で予測した光の曲がりをエディントンが観測します。
ここから一般相対性理論の観測によるテストが始まりました。

その後1979年にブラックホール自体を観測するため、
Luminetはブラックホールの影を捉えるという方法を編み出しました[4]。
今回はそれを実際に観測したというニュースです。

ブラックホールの影の観測

ブラックホールは巨大な天体ですが、非常に遠くにあります。
今回観測したM87銀河のブラックホールは地球からおよそ6000万光年の距離にあります。
地球から見える大きさは42マイクロ秒角[5]というとても小さなサイズになってしまいます。
ちなみに地球から見える太陽の大きさが0.03秒角です。

天体を観測するためには望遠鏡を使います。
遠くにある小さな天体を観測するためにはより大きな望遠鏡が必要です。
そのため、このブラックホールの観測にはとても大きな望遠鏡が使われました。
なんと地球サイズの望遠鏡です。
どうやって地球サイズの望遠鏡を作り出すかというと、
複数の望遠鏡を組み合わせて画像を合成することで、
一台の巨大な望遠鏡のようにすることができるのです[6]。
最近のスマートフォンでは複数のカメラがついているものがありますが、
それのものすごい大きなものと考えてしまってもいいでしょう。

その巨大な望遠鏡の一つを担うのが南米のチリにあるアルマ望遠鏡です[7]。
この望遠鏡は一台の望遠鏡ではなく、12mのものが54台、7mが12台、合わせて66台が16kmの範囲に広がり
一つの望遠鏡として機能しています。
巨大な望遠鏡を作る技術、巨大な画像へと加工する技術といった最新の工業技術に
この望遠鏡は支えられています。

ブラックホールであることの証明

仮に望遠鏡によって何かの天体を観測することができても、
それがブラックホールであるとは限りません。
そこでシミュレーションによってブラックホールのモデルを作り、
そのモデルと合致するかを確認する必要があります。

このシミュレーションのためにスーパーコンピュータが使われています。
その処理能力は3PFLOPS(ペタフロップス)[8]です。
普通のパソコンが100GFLOPS程度ですので、単純に3万台分もの能力を持っています。
しかも、シミュレーションでは複数のモデルを用意してそのそれぞれと比較する必要があります。
この観測では420ものモデルが用意されました。

観測を支えた技術

これまで人類は様々な星々を観測し宇宙の描像を捉えてきました。
これからはその中にブラックホールが含まれることになります。
宇宙を見る目は、また新たな一歩を踏み出しました。

このように今回のブラックホールの観測は、
アインシュタインの時代にはない技術を駆使することで可能になったといえるでしょう。
技術の発展が科学の進歩に貢献する例は他にも多数あります。
また、科学の進歩が技術の飛躍に貢献することもあります。
こうして科学と技術とは両輪となって共に発展してきました。
私達も技術を通じて社会の発展に貢献できるよう努力していきます。

Written by 鈴木(聡)

参考

[1] First M87 Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole, The Event Horizon Telescope Collaboration, 2019, Apjl.

[2] Observation of Gravitational Waves from a Binary Black Hole Merger, B.P. Abbott et al., Phys. Rev. Lett. 116, 2016

[3] Advanced information. NobelPrize.org. Nobel Media AB 2019. Tue. 7 May 2019.

[4] Image of a spherical black hole with thin accretion disk, Luminet, J.-P., 1979, A&A

[5] 史上初、ブラックホールの撮影に成功! - EHT-Japan

[6] VLBI電波望遠鏡群 | 国立天文台(NAOJ)

[7] アルマ望遠鏡とは - アルマ望遠鏡

[8] 地球規模の望遠鏡とスーパーコンピュータで,ブラックホールの素顔にせまる | CfCA - Center for Computational Astrophysics

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